BACK TITLE|TITLE TOP|NEXT TITLE ほんとうに、 ほんとうに、 中庭にはいると、早咲きの桜に迎え入れられた。周りの同級生は胸の花飾りをゆらしながら口々に歓声をあげる。 気の早い男子生徒は早くも満開になった桜によじ登り、満面の笑みでピースをしている。 ああ。ほんとうに。 「なーん莉里どうしたん?」 「ん?別に」 ぐるりと校舎を振り返る。まだ日は高く、ちょうど校舎の真上に太陽があった。くるんとまかれた卒業証書を右手にあげて視界を防ぐ。 「ほんとに、卒業なんだねえ」 「はーやっとあの馬鹿男子と別れられる」 弓道部の部長に入れ込んでいたすみれはそう言って快活に笑った。 くすくすと笑い返して、私は校舎から中庭の木々に視線を落とす。 「なんかさあ青春したいーって言ったまま終わっちゃったかもね」 「あ、それ言っちゃ駄目っ」 「あはははごめんごめん。さ、写真撮りにいこ」 「おっけーおっけーあ、そん前にあれやろあれ」 「あれ、ね」 片目をすがめて、すみれと肩を並べて校舎を見上げた。ほんのり春色に染まった空気を胸一杯に吸い込んで。 「「三年間、お世話になりましたっほんとにほんとに、大好きだ―っ」」 突然響き渡る二つの高い声に、周りの生徒がぎょっと私たちを見る。 まあいいじゃない。 ちゃーんと校舎にお別れして。 そしてこれが、ほんとうの卒業。 ******* 卒業していく女子高生たち。 さよなら。さよなら。私たちは旅立っていきます。蝶のように。風のように。でもあなたはいつも見守っていてください。 BACK TITLE|TITLE TOP|NEXT TITLE |