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 ほんとうに、
 ほんとうに、


07 校舎の外で










 中庭にはいると、早咲きの桜に迎え入れられた。周りの同級生は胸の花飾りをゆらしながら口々に歓声をあげる。
 気の早い男子生徒は早くも満開になった桜によじ登り、満面の笑みでピースをしている。

 ああ。ほんとうに。

「なーん莉里どうしたん?」
「ん?別に」

 ぐるりと校舎を振り返る。まだ日は高く、ちょうど校舎の真上に太陽があった。くるんとまかれた卒業証書を右手にあげて視界を防ぐ。
 
「ほんとに、卒業なんだねえ」
「はーやっとあの馬鹿男子と別れられる」
 弓道部の部長に入れ込んでいたすみれはそう言って快活に笑った。
 くすくすと笑い返して、私は校舎から中庭の木々に視線を落とす。

「なんかさあ青春したいーって言ったまま終わっちゃったかもね」
「あ、それ言っちゃ駄目っ」
「あはははごめんごめん。さ、写真撮りにいこ」
「おっけーおっけーあ、そん前にあれやろあれ」
「あれ、ね」
 
 片目をすがめて、すみれと肩を並べて校舎を見上げた。ほんのり春色に染まった空気を胸一杯に吸い込んで。

「「三年間、お世話になりましたっほんとにほんとに、大好きだ―っ」」

 突然響き渡る二つの高い声に、周りの生徒がぎょっと私たちを見る。
  
 まあいいじゃない。
 ちゃーんと校舎にお別れして。

 そしてこれが、ほんとうの卒業。


*******
卒業していく女子高生たち。
さよなら。さよなら。私たちは旅立っていきます。蝶のように。風のように。でもあなたはいつも見守っていてください。




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