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教師って、つらいよな




12 「寝るな、寝たら死ぬと思え」






 なんやかんやで、俺のクラスは変な奴が多い。特別不良がいるわけでもないのに、なぜか学年で浮いている。校長や学年主任は「日比野先生のクラスはおもしろいわ〜やっぱり担任の影響かしらあ」などと軽々しく言ってくる。ふざけんじゃねえぞこのやろう。
「…で、あるからして、この活用がだなあ」
「せんせーっ」
「なんだ山田。お前一時間目からいるとはいい度胸だな」
 遅刻早退チェックをしていると名簿が真っ赤になる山田はぱちぱちと瞬きをした。
「……俺が真面目にでたらいけないんスか」
 それに応える前に、山田の隣の河内が頭を抱え始めた。
「いや、なんか起こるよ〜ぜってえやべえよーコミケに間に合わねえよおおッ」
「河内クン。同人本は授業中はしまうように。ていうか一番前の席で何やってんだゴラァッ!!!…で、なんだ山田」
 いまだに手をあげたままの山田はにやりと彼特有の意地悪そうな顔を浮かべて、後方を指差した。
「……大木さんが寝てます」
「……」
 クラス中が息をのむ。そして、おのおのが窓際の一番後ろを振り返った。
「注意しなくていいんですか」
 山田は振りかえってまたにやりと笑った。
 こいつ、楽しんでやがるッあえて窓際に目をやるのを避けていたというのに!!
「あれはな、寝てないんだ。大木はな、心の目で俺の授業をきいているんだよ。わかったな?わかったんならさあ授業を始めよう諸君ッ」
「ええ〜おきてないよ〜ねえ山田〜」
「先生起して見せてよ〜」
 …なあ山田。俺は時々不思議におもうことがある。お前普通だったらクラスでは影がうすくてガンダ○with ライフみたいなやつだろう。なんでことあるごとにクラス中に権力が行使されるんだ?
「………分かった」
 俺がうなだれるとクラス中から喝采が起こる。
だからなんでそんなことにテンション高くなるんだ。
 重い足をひきずって、窓際の一番後ろに向かう。
 閉じられたスケッチブックが机の上に置かれてその上につっぷしてすこやかな寝息をたて、その背中にはオーバーがかかっていた。
「…こうも堂々と寝られると、いっそ悲しくなるな」
 すーすーと寝る大木は美術部のエースだ。美術部にエースがいるのかどうか甚だ疑問なバスケ部顧問の俺だが、美術部の萩先生がおっしゃっていたから間違いはないだろう。5年に一人の逸材と言っていた。………てかそれ逸材じゃなくね?
 俺はため息をはいて、大木の肩をゆすった。
「おい、大木起きろ」
「んー」
「おーきーろ」
「ぐー」
「ねえ、ちょ、起きてるんだよね?聞いてる?先生泣きたくなってきたんだけど」
「泣けば?……ぐー」
「お前先生のこと嫌いだろう。もうそれ狸寝入りしてるつもりだろうけどそうじゃないから。わかったな?起きたな?」
「くーくー」
「…大木ッいいな寝るな、寝たら死ぬと思えッ」
 ぱちっと大木の瞳がひらいた。そしてがばっと身を起こしたかと思うと、さわやかな朝の目覚めをいま実感したかのようにのびをして、俺を見た。
 …ああやっと俺の長い戦いが終わった。
 ……と同時に授業終了のチャイムが鳴り響く。クラス全員がわっと沸いた。
 …………ん?
 大木は微笑んで、間延びした声で言った。

「せんせーの、負け」


 …俺、担任だよな?
 

*******
それでも高校教師な日比野先生。
寝てる子は、01の女の子だったり。先生をからかって遊ぶ仲良しクラス。




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