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幼なじみだもんね



02 教科書は要らない






「変だよ」
 ぽつり、と由希がつぶやいた。俺は見ていた問題集から目をあげて首をかしげた。
「なにが」
「陽ちゃんはどうしてあたしのこと好きなの?」
「は?」
 間の抜けた声で返したのにたいし、由希は真剣な表情で俺を食い入るように見つめてくる。
「だって、だって、陽ちゃんは頭が良くてかっこよくて、おまけに、バスケ部のキャプテンで…」
「はあ、それで?」
「メガネで、ちびで、馬鹿なあたしとはどう考えてもつりあわない…」
 最後の方は声がかすれてきて、そのまま由希は黙り込んでしまった。俺は眉をひそめて、何気なく部屋を見回した。
 いきなり携帯で俺を呼び出して、宿題をしようと言い出したのは由希の方だ。携帯で話をしていたときは普段とかわりはなかった。
「……おまえ、まーた馬鹿な雑誌の占いでも見たのか?」
「…ばかってなによっだってだって…どの雑誌でもあたしと陽ちゃん相性50%以下なんだよっ?!!」
 興奮気味でまくしたてるうちに由希の瞳が涙でいっぱいになって、ぼろぼろと頬を流れおちていく。
 思いこむと手に負えないのがこの幼なじみのよくないところである。

 だけど、これを対処できるのは、俺しかいないし、他のやつにさせる気もない。

「ゆき」
 
 少しきつめの声で呼ぶと、由希はびくっと肩を震わせて俺を見上げる。けれどもすぐに俯いてしまった。それが小犬を思わせて、笑いそうになったが堪えた。

「あのな、おまえ俺から告白したの覚えてないのか?」
「…お、おぼえてる、けどっ」
 うつむいて、スカートの上で握りしめている拳を見つめながら由希はとぎれとぎれに応える。
 問題集を閉じて、脇に寄せて、できるだけ由希との距離を縮めながら俺は続けた。
「俺言ったよな。ゆきじゃないと嫌なんだって」
「う、うん……でも…」
「それに理由はない。だけど、俺はゆきがいなくちゃ嫌だ。ゆきが他のやつにとられるのはもっと嫌なんだ。…だから付き合ってる。納得した?」
「よう…!」
 ずっと俯いていた由希が顔をあげて、声にならない悲鳴をあげた。俺が思ったよりも至近距離にいたからだろう。
(こういうとこが、可愛いんだよなあ)
 そんなことを思いつつ、にこっと笑って由希の頭をぽくぽくと叩く。
「答えなんていらないだろ。教科書の問題じゃあるまいし」
 由希は口をへの字に曲げてすねた表情を浮かべた。
「…陽ちゃん用の教科書がほしい」
「ん、なんだってー?」
 俺は手を伸ばして、むうっと膨れる由希の顔から縁なしのメガネをとる。
 そして、笑いながら小さく口付けた。



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幼なじみな男の子と女の子。
とにかく、分かっているのは君がいなくちゃはじまらないってこと。




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