夏も近付いてきたある日の夕暮れ。私は公園に足を運んでいた。小学生の頃から、月に一回は通ってるんだよね。
さびれたなー。やっぱり。
そして、目当てのものを見つけ、少し笑みが浮かぶ。 見つめる先は、鉄棒。
そっと触れると、ひんやりとした感触が伝わった。
高校生にもなって、こんなところくるなんてね…
いつも来るきっかけは、なんとなく、だったり。 少し遊んでいこうと思ったり。
「…」
小学校の四年生くらいまでは、毎日と言っていいくらいここにきていた。
友達と遊ぶときもあったけどほとんどは逆上がりの練習のためだったな。
だって、みんなすいすいできてるのに、わたしだけできなかったから。
どんくさいって言われて、泣いちゃったっけ。 でもそこで終わるほど、私は泣き虫でもなかった。
人一倍負けん気だけは強かったもん。
「…できるかな。」
棒を握ってみる。うん、できる。
手に力を込める。足を振り上げて、重力を上に上げる。
一瞬、身体が落ちそうになった。でも、無我夢中で足をまわす。
あっーーーーと思ったら視界が反転して、身体が一回転した。
やった!
少し目が回ったけど、気持ちいい。
「パンツ丸見えだよ。」
……え?
声がした方を見る。少し離れたところに、男の子が立ってた。
いたずらっぽい笑み。顔に見覚えが、あるようなないような。
制服は、県で一番頭が良い千木高校。
対して私は、普通の女子高の制服…、…………制服?
「きゃああああ!!」
慌ててスカートを押さえるけど、ハッキリ言って意味がない。
顔が赤くなる。どうしようどうしよう。
しかも結構かっこいい…じゃなくて、問題なのは、
今日どんな柄の履いてたっ…ってそんなこと考えてる場合じゃない!
「紺パンなんてダセー。」
「!!!!!」
男の子が近付いてきた。びっくりして鉄棒に背中を押し当てる。
「だ、だれ?」
「…覚えてないの?ひっどいなあ。」
困ったように眉をひそめて男の子は笑った。
なんか、男の子って言うの、変かも知れない。
「俺は覚えてるのにさ。」
「知らないわよ!」
「んー、じゃさかあがりの神様でいいや。」
「ふざけないでよ!…もしかして、そこの小学校の卒業生?」
フェンスにしきられた、向こう側にたたずむ校舎を指差す。
「うーん…卒業はしなかったけど途中まで通ってたよ。」
「同い年とか…?」
小学生のときの初恋のヒトだったりして…と淡い期待をかけてみる。
そう聞くとにっこりと笑った。
「ううん。一つ年下!」
(年下!)
私はがくっときた。どうりでこの…いや、やめておこ。
「えーっとどこかで?」
「えー?ほんとに忘れたの?」
そんなこといわれても、困る。小学生時代なんて覚えてないもん。
それにこんなかっこいい男の子に会ってたら、年頃の乙女としては覚えてる自信が絶対にある。
「……」
「オバサン。」
「…は?」
なんですと?
「もうちょっとやせらんないのかよ。デブババア。」
にっこーっと笑って言われた。
「そんなでっかいしりじゃさかあがりなんて、できるわけねーな」
ちょっと待った。
なんかがんがん後ろに引っ張られてる感じ。
いま言われてることと、同じ台詞、聞いたことある。
小四の頃、さかあがりができないとき、
かならずといっていいほどからかってくる男の子がいた。
はなたれで、チビで、馬鹿で、おまけに年下で、当時の私の好きなタイプとはかけ離れた男の子。
オバサンだとか、ババアだとか。 お姉さんなんだからって我慢してた。そいつはかなりうるさかった。
自慢だったお下げを引っ張ったりする奴だった。
だけど、さかあがりができるようになったのは、そいつのおかげ。
それは感謝してる。だけど、だけど、よりにもよってある日、
おまえはぶすだから、ぶさいくなんだから、ぼくぐらいしか、よめのもらいてないよ、なんて言ってきた。
さすがのあたしだって、カチンと来た。
「も、しか…して…けいご、くん…?」
「あたしはあんたみたいなちびとはけっこんしないもん。
かっこよくて、あたまよくて、せのたかいひととおつきあいするんだもん。≠チて、かなりきつかったなあ。」
ますます笑みを深める。反対に私は顔がひきつった。
も、しかして、もしかして…
「そのおかげで?俺は乳製品を食べ?たんぱく質をとり?まあ顔はもともと良いからいいとして、
県で一番の高校に入りましたよ?オバサン。」
「だ、だ、だ、って!そんな…、十年近く前のことじゃない…!!」
たじたじ、だらだら。もう頭はパンク寸前。どうしよう。
落ち着くのよ!梓!!これは夢!夢ええ!!!
ぶんぶん頭を振る。くん、と髪を引っ張られる。
「……顔真っ赤。可愛いじゃーん。」
「くおらあああああ!!」
「もう一度言ってあげよーか?」
にや、と笑う。ああ、そんな笑みもまた素敵なのですが、怖いです。
「だって、ぼく、すきなんだもん。オバサンのこと」
へにゃあああ…っと地面に座り込んでしまった。
冗談じゃない筈なのに……、どうしてだろう。胸が、熱い。
「……じゃない。」
「んー?」
「あのあと、あなた、公園に来なくなったじゃない。」
そう。そうなのだ。カチンと来ることを言われても、夕方まで練習になんやかんや付き合って、
さりげなくアドバイスもくれたりした。幼いなりに、お礼はしなきゃ、と思って、公園で待ってたんだ。
でも、何日待っても、男の子は来なくて、呆然とした。
「あー引っ越したから。っつっても隣の町だけどナ。」
「………そうだ、ったんだ。」
圭吾君ががしゃがみこみ、私を覗き込んだ。
「ねえ、今彼氏いるの?んでも、いなそーだな。俺と付き合おう?」
はあ?
「…なにそれ。告白?」
「ん。そ。十年越しのvロマンチックっしょ?」
こっくりと頷く仕草は、可愛いような、なんともいえない。
いたずらな瞳に、吸い寄せられる。
でも、ここでなびいたら、女が廃るわよ!
「ふざけないで。態度のなってない人とお付き合いは出来ません。」
つん、と横を向くと、男の子は噴出した。
そして、ふわっと唇に温かさが伝わった。
「では、改めて。飯島圭吾っていいます。俺と付き合ってください。木村梓サン」
……。
手を口で覆って、かああああっと顔が赤くなる。
「あ、おっけー?」
「やることと言う事が逆よ!!」
私は思いっきり頬をひっぱたいてやった。
「いってー…」
簡単になびくもんですが!
でもなんでこんなにドキドキしてるんだろう…。
木村梓、十七歳。年下の情熱に、負けそうです(泣)
あとがき>>
さかあがり、私できないんですよねアハハ。
同級生の男子にコケにされた覚えがあります。
最近公園行ってないなーっと思いながら書いたもの。
◇一言感想 このままでも喜びますv一言のお返事は日記にて。